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2015/10/02 Fri *同志 / Patti Smith

20151002horses


初めて会ったのは。
もう三年ほど前になるのか。
プロジェクトの火消を依頼されて。
赴いたクライアント。
そこで出迎えてくれたのが彼女だった。

クライアント側の。
現場責任者だった彼女。
その理路整然とした説明。
こちらの視線を逸らさずに話す凛とした姿。
出来る人だなと言うのは一瞬にして解かった。

酷い状態だった。
クライアントは理解不足。
ベンダーは説明不足。
調整役を担う筈のコンサルタントは。
指導力不足の上にコミュニケーション力不足。

火を消す前に。
火中の栗を拾って。
その栗の持つ意味合いを。
三者三様に説明して理解させるところから始めるわけね。
やれやれ。

望むところだねと。
火を噴いていれば噴いているほど。
地雷が埋まっていれば埋まっているほど。
どう鎮火させるか、どう踏み潰すか。
興奮する様な人種だった自分には願っても無い(笑)修羅場だった。

聞いている振りをする人達。
理解した振りをする人達。
動いている様に見せかける人達。
火を噴く現場にありがちな人間模様の中で。
彼女は常に、耳の痛い話にも耳を傾け、理解できるまで考え抜き、率先して動いていた。

『Horses』'75年リリース。
言わずと知れたパティ・スミスの1stアルバム。
パティの盟友でもあったロバート・メイプルソープによるジャケット。
凛としたその姿に。パティの意志、決意、覚悟が見事に捉えられている。
何の奇も衒っていないモノクロームのポートレイトが、簡潔にして雄弁に語る。
そのアルバムの内容は、ラフでヒリヒリとした演奏と。
その演奏を背景に、魂を絞り出すかの如くのパティの歌声。
それらが描いた、それらが創りだした。新しい世界の誕生が実に刺激的で。
ニューヨークのアンダーグラウンドなシーンでは'60年代から既に知られていながら。
デビューに関しては慎重だったパティの。その30歳を目前にしたデビュー。
そこまでに蓄積され、醸成されたものの重み。それを一気に吐きだした過激さ。
その鮮烈さによって、閉塞していたシーンに見事に一撃で穴を開けることとなった。
そして同時に。このパティの存在があったが故に。後に続く多くの女性ロッカーの道が開かれた。
ジャニス・ジョプリンが扉を蹴破って、開拓し、歩んできた道を。
更にパティが、より多くの可能性の扉を開き、より多くの道、可能性を示してみせた。
そう。パンク云々を超えて。パティがその凛とした姿勢、その折れない心と共に現れた。
その意義は、とてつもなく大きなものであったと。今更ながら感嘆させられるものがあります。
ジョン・ケイルがプロデュースしていることも。トム・ヴァーレインが参加していることも。
その影響が明らかな、ボブ・ディランやヴァン・モリソンやザ・フー等を見事に咀嚼して。
パティ・スミス、その人以外の何者にも成し得ない表現、個性を確立してみせている事実。
その前には。失礼ながら、些末なことにしか思えなくなってくるのです。
じっと一点を見据えるジャケットのパティ。寡黙な様でもあり、雄弁な様でもあり。
ただ確かなのは。その凛とした姿の内に秘められたものは今も変わっていないだろうと言うことだけかな。

初めて会ってから。
一年以上。
立ち位置は異なりながら。
火を消すこと。
そして。その灰の中から新たなものを生み出すこと。

目標を同じくして。
歩んでいく中で。彼女は常に共にあった。
時に体面にあり。時に横にあり。時に少し離れて。
その時々で。迷いや悩み。そして怒りを抱えながら。
彼女の凛とした姿勢と眼差しは揺らぐことは無かった。

やや強引な手法で火を消して。
新たな可能性を探り。新たなものを生み出すことに注力する。
その段階で。彼女の姿勢と瞳は輝きを増し。
乗せて、引っ張った筈の自分が時には逆に引っ張られる思いもした。
だが。それは決して心地の悪いものでは無かった。

彼女と彼女のメンバー。
自分と自分のメンバー。
中核となった四人は。いつのまにか自然と。
時には立場の違いを乗り越えて。一体となって。
自分達が生み出そうとしている新しいものの可能性に。

最初は。絵空事とも思えた。
その新しい可能性を。実現させる為に。
時間を忘れて議論を戦わせ。疲れも忘れて飛び廻り。
いつのまにか自発的に。様々な試みをも持ち込んで。
兎に角。今や共有のものとなったその可能性にかけた。

考えうる想定は徹底的にシュミレーションし尽くし。
考えられるリスクには総て解決策を想定し。
考えられる効果は総て測定し。その裏付けをし。
最高とは言えないまでも。間違いなく最善のものを生み出す。
その目的から、効果。手法から。実行計画までを共に創り上げた。

結論から言うと。
我々は。
彼女と自分は。
敗北した。
敗れ去った。

ある日の深夜。
彼女から一通のメールが届いた。
どうしても。上層部を説得できなかったと。
何度も。何時間も説明を尽くしたが。受け入れられなかったと。
その事に関しての謝罪と共に。初めての愚痴と弱音が綴られていた。

泣いているんだ。悲鳴を上げているんだ。
決して人前では表には出さなかったが。
そう。もう、随分前から彼女は。我々には入ることが出来ない。
その世界では一人で闘いながら、疲弊していたのだろう。
そこに込められた彼女の思いを背負い、そしてそれ以上に我々の思いを背負い。

彼女に返信を書いた。
それは通常であれば。自分のビジネスに於いては許されない。
いわば、彼女がそれでも闘うのであれば。どこまでも共に闘いますよとの。
道行きを、心中をする決意を示すものであった。
彼女を励ます為に、多少誇張はしたものの自分の本心であった。

翌朝。メンバーが声を掛けてきた。
あの返信は不味いですよねと。そうだなと。でも退く気にはなれないんだと。
いいじゃないですか。俺も嫌いじゃないので。やりますか。
別の打ち合わせに向かう為に我々の席の側を通りかかった時。彼女は黙って一礼していった。
事情を知る筈もない彼女のメンバーも、彼女を助けてほしいと飛んできた。

それで。もう十分だった。
彼女が闘いを放棄しない限り。全力で自分も共に闘う。
ビジネスとしては論外だが。もう金の問題じゃない。ここまで来たら。
自分の信義の問題だ。我々は間違ってはいない。
だったら。ここで退く訳にはいかない。退いちゃ駄目だ。絶対に駄目なのだと。

それから。暫くして。
遂に闘いに終止符が打たれた。
クライアントの上層部はあくまで首を縦に振らず。一からの再検討を決した。
彼女は新たな任務を与えられて。専任では無くなった。
自分は再検討とやらの提案の為に呼び戻された。

従来と百八十度異なる提案を喜々として語る輩は。
その内容よりも。新たに得られると思われる報酬の試算に夢中だった。
思わず。馬鹿じゃねぇの、やってられねぇと呟いていた。
(後でメンバーに聞いたら、どう考えても呟くって程度では無かった様だけど)
自分は完全に外されて。そのクライアントには足を運ぶなと釘を刺された。

最後の挨拶だけはと。
彼女を訪ねて。外れることを告げた時。一瞬、驚いた後に彼女は微笑んで。
私もこの会社を辞めますと静かに語った。俺には掛ける言葉は見当たらなかった。
でも。負けましたけど。私たちのやってきたことは間違って無かったですよね。
堪らずに、そう問いかけた彼女に。えぇ、間違ってません。そう答えるのが精一杯だった。

その後の事は書く気もしない。

約一年半ぶりに。
再会した彼女は。
以前と変わらぬ凛とした姿と。
熱い思いを内に秘めた瞳で出迎えてくれた。
それだけで。総てが理解できた。

彼女は。
いま、新しい場所で。
新たな戦いに。
立ち向かっている。状況は以前と似た様なものらしいが(笑)。
潰されたものを場所を変えて再現しようとしている。

そして。
俺は。
自分を潰したものを内部から食い破ってやろうと。
密かに牙を剥き。
潰したものの内部に築き上げようと企んでいる(笑)。

時は流れた。
互いに新しい道で。
互いに新しい闘いを始めた。
だが。そう。変わらずに。
彼女と自分は同志なのだ。

それだけで。いい。



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